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東京地方裁判所 平成2年(ワ)11779号 判決 1992年1月21日

原告

佐藤省造

右訴訟代理人弁護士

川村武郎

被告

株式会社セキレイ

右代表者代表取締役

石田弘毅

右訴訟代理人弁護士

染谷壽宏

主文

一  被告は、原告に対し、金一〇六万六六六六円及び右内金六六万六六六六円に対する平成二年一〇月三日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

1  被告は、原告に対し、金一一一万一一一一円及びこれに対する平成二年一〇月三日から右支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

第二事案の概要

本件は、即日解雇された従業員が、未払賃金と解雇予告手当及び未払解雇予告手当についての付加金の支払を求めた事案である。

一  争いのない事実等

原告は、平成二年七月二一日まで被告の従業員であったが、同日即日解雇(以下、「本件解雇」という。)された。賃金は月額金四〇万円であり、月の一日から末日までの分を翌月の一〇日に支払うというものであった(原告本人尋問)。

原告は、平成二年七月一〇日に同年六月分の賃金の支払を受けたのみで、同年七月一日から同月二一日までの賃金の支払を受けていない。

本訴状は平成二年一〇月二日に被告に送達された。

二  争点

本件解雇が懲戒解雇であるか否か及び懲戒解雇であるとした場合その解雇の有効性。

三  原告の主張

原告は、平成二年七月二一日に即日解雇されたものであるから、原告が支払を受けていない七月分の賃金は金三一万一一一一円(一日分を四〇万円÷二七で計算)であり、解雇予告手当は金四〇万円である。

原告は労働基準法一一四条に従い、未払い解雇予告金については付加金四〇万円の支払を求める。

被告の懲戒解雇の主張については、懲戒事由が存在せず、懲戒解雇は無効である。

四  被告の主張

原告は、平成二年五月九日から一か月の試用期間を置いて被告会社に入社した者であるが、入社後間もなく社内や社外において、被告会社の経営につき非難中傷をし、さらに被告会社の社員でありながら、被告会社と全く無縁の暖炉やログハウス等を被告会社の見込み客に売り込み、また顧客からの入金分の横領等の背任行為が相次ぎ、前記日時に懲戒解雇され、原告は右解雇を異議なく承諾したものである。

第三争点に対する判断

よって検討するに、原告本人尋問の結果によれば、原告は、平成二年七月二一日に、会社の上司から「おまえは首だ」といわれたことが認められ、(証拠略)によれば、原告は右同日被告主張趣旨に添う内容の書面を会社に提出していることが認められる。そして右事実からすれば、右上司による意思表示は、被告主張の事実を理由とする懲戒解雇の意思表示であったことが認められる。

しかしながら、(証拠略)及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、(証拠略)の書面を作成する直前に、被告会社の専務や部長等数人から殴る蹴るの暴行を受け、頸部挫傷、左前腕・左上腕・右下腿打撲、右第五指打撲による全治一〇日の傷害を負わせられ(後に、左眼も打撲を受けていることが判明し、さらに平成二年八月二九日からは頸椎捻挫、腰部挫傷、右小指挫傷で通院治療を受けている。)たうえ、右趣旨の内容の書面を書かなければ帰さないと言われたためにやむを得ず意に反して作成したものであることが認められ、右事実からすると、右書面の内容には信用性がなく、他に被告主張の懲戒事由の存在を立証する証拠はない。

そうであるとすれば、被告に懲戒解雇権が発生しているとは認められず、したがって、被告の懲戒解雇の意思表示は無効であり、これを通常解雇の意思表示と見るにしても、解雇予告手当の支払がない以上解雇の効力は生じないことになるが、被告において雇用関係を即時に終了させる旨の意思を有していたことは明らかであるとともに、原告においても雇用関係の即時終了の効力が生じること自体は容認し、解雇予告手当の支払を求めているものであるから、右意思表示によって原告と被告との間の雇用関係は即時に終了し、被告は原告に対し解雇予告手当を支払うべき義務が生じるものと解するのが相当である。

そして、前述のように、原告の賃金は月額金四〇万円であったというのであるから、労働基準法二〇条一項により、被告は原告に対し金四〇万円の解雇予告手当を支払うべき義務があるというべきである。

また、原告は、予告手当と同額の付加金の支払を求めているところ、当裁判所もこれを相当と認め、労働基準法一一四条により、被告に対し右解雇予告手当と同額の金四〇万円の付加金の支払を命ずる。

さらに、被告が原告に対し、平成二年七月一日から前記解雇の日である同月二一日までの賃金を支払っていないことは当事者間に争いがないから、被告は原告に対し、右期間の賃金を支払うべき義務があるというべきであるが、原告は、右期間の賃金を計算するに、月額の賃金を出勤すべき日数で除して一日の賃金額を出し、それの二一日分を請求しているものとみられる。しかし、そうであるとすれば、七月一日から二一日までの二一日間から出勤を要しない日は控除されなければならないはずであり、平成二年七月は一日から二一日までの間に三日の日曜日があるから、出勤すべきは一八日間とするのが相当であり、この間の賃金は金二六万六六六六円となる。その余の請求は失当である。

また、原告は、未払い賃金、解雇予告手当及び付加金のすべてにつき、訴状送達の翌日である平成二年一〇月三日から年五分の割合による遅延損害金の支払を求めているが、付加金については、これを命ずる裁判の確定した翌日から遅延損害金が発生するものと解すべきであるから、付加金についての遅延損害金の請求は失当であり、被告は未払い賃金と解雇予告手当の合計金六六万六六六六円についてのみ、支払期日以降であることが明らかな右期日から、民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるというべきである。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 高田健一)

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